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瑛のターン。
彼はいつもひたむきだと思う。


第二話 

 ここ喫茶アルカードははばたき市でも老舗中の老舗喫茶店だった。

 市街地のメインストリートから一本入った道筋ではあったが、昔からの常連客もいたし、決して古臭さにしがみついているというわけではない。その店なりのスタイルを貫いていると言ったほうが正しいだろう。なので古臭くもなければ、今時の軽薄さもない。そのせいか一定の顧客を掴んでいるし、新規の客も逃がさない。

 それは店主のポリシーと出されるコーヒーが本物だということなのだろう。

 佐伯瑛はそこが気に入り、大学に入学したてのころからここでバイトをしていた。

 店主も瑛が羽ヶ崎の岬で喫茶店「珊瑚礁」を、営んでいた店主の孫であることを知っていて、修行という名でバイトに雇った。

 そう、佐伯瑛は諸事情でたたんでしまった祖父と亡き祖母が愛し大切に育んできた「珊瑚礁」を、いつか再開させるため、学生時代からずっと運営資金を貯めつつ、経営のノウハウを様々な手段で学んでいた。すでに貯蓄もずいぶん貯まっていたし、ここ数年続くカフェブームに便乗すれば、今すぐにでも「珊瑚礁」を再開出来たが、簡単に始めて簡単につぶれてしまうような安易な店を持ちたいわけではない。そこで大学卒業時、流通を勉強しようと食品輸入会社に入社した。ただ感覚を忘れないために、入れるだけアルカードにもバイトとして席を置いている。瑛を信頼し、そういう事を許す店長の度量も瑛はとても気に入っていた。

「すみません、遅れました」
 カランと出入り口の扉のウインドチャイムを鳴らしながら瑛がアルカードに入店すると、店長がいつもの柔和な笑みを浮かべながら、
「お疲れさん、瑛くん彼が夜入ってくれる新しいバイトの子だよ」
と、自分の正面に立っていた青年を目で促した。

(うわ…)

 それが瑛の新しいバイト青年への第一印象だった。
「桜井琉夏です。お願いします」
 金髪ロン毛に片耳ピアスの青年・琉夏は見た目よりも律儀げに頭を下げてはっきりと挨拶した。
「ああ、オレは佐伯瑛、よろしく」
 そう返すと頭を上げるなり金髪くんはニカッと、人懐っこい笑顔を浮かべる。

「佐伯くんはこの世界長いから、わからないことは彼に聞いてよ」
「はい、よろしくお願いしまっす」
「あ、いや、俺は金土の夜しかシフト入ってないから、店長適当な事言わないでください」
 再び柔らかに揺れる金髪に深々頭を下げられて、瑛は恐縮を覚える。
「何言ってるの、君の炒れるブレンドは人気あるじゃないか。ファンも多いしね~」
「勘弁してください…」
 確かに、店長に勧められて、個人で研究していたブレンドをメニューに加えてもらい、それなりに人気が高く、定番にしてもらっている。その上学生時代から『王子様』と囃し立てられるほど造作の整った顔立ちで女性の顧客もたくさん掴んでいた。

 多少なりともここ数年のアルカード売り上げには貢献していただろう。

 だからと言って、それを鼻にかける気にはならない。店長が理解していてくれることとはいえ、自分はココをそのうち巣立って独り立ちする身だ。幾人かの顧客も分けてもらう狙いがなくもない。ソレを後ろめたく思わないほど、瑛は薄情な性格をしていないのだ。

 そんな瑛の困り様に店長は苦笑して、
「まあ、そう言わず、色々頼っちゃって悪いけどよろしくね。あ、桜井くん、レジ教えるからこっち来て」
「はい」
琉夏を出入り口傍にあるレジに案内した。

 からかわれることからやっと開放された瑛は軽く息をつくと、店長の後ろについて、レジの説明に頷いている青年を観察した。自分の抜けた穴をちゃんとカバーできるバイトは少なく、店長にはかなり迷惑をかけている。あの金髪くんが見た目ほど浮ついた人間では無さそうに見え、少し安心した。

 そのまま奥にあるバイト用の更衣室に着替えに入ると、パンツの尻ポケットに入れたケータイが震えるのに気がつく。
「………」
 仕事終わりから慌ててこちらに来たので、バイブのままだったが、着信ランプの色で誰からなのかすぐに知れた。
 小さな液晶小窓に『アカリ』とだけ浮かぶ。二つ折りのそれを開いて耳に当てた。
「なに?」
 思わず予定していたより低い声が出る。
『ごめん、バイト中?』
 申し訳無さそうな声が返ってくる。瑛はケータイを耳と肩に挟みながら、袖のボタンを外しつつ自分用のロッカーを開けた。
「本来なら。ちょい遅刻して今準備中。時間ないぞ」
『うん…今日ごめん、そっち行けなくなったの』
「……そっか。わかった。けど、そんなのメールで済むだろ、切るぞ」
 相手の返事を聞かぬまま通話を切ると、ケータイを投げ込むようにロッカーに突っ込み、従業員用の制服を掴んだ。

 つっけんどんにした相手は、今頃不通のケータイに向かって、罵詈雑言を吐いているだろうか?呆れているだろうか?それとも……。

 髪を整えようと鏡を覗くと、自分の眉間に深い皺が刻まれていた。

 わかっている。

 わざわざ電話して来てくれたんだ。
 味気ないメールで謝りたくなくて、例え瑛がバイト中で出なくとも、メッセージを残そうとしてくれていたのだろう。

 けれど判っていても、それに対して感謝の気持ちも、喜びも幸せも沸いては来なかった。

 ぐっと眉間を指で揉み込み、両頬を軽く叩いて口角を上げた。


ほら、営業用スマイルはお手の物だ。被った猫が久々に肥大したように、笑顔の自分の肩が重い。瑛はそれを認めないかのように、少々乱雑にロッカーを閉じるのだった。


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