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ときめきメモリアルGSシリーズ二次創作ブログですが、版権元などとは一切関係ありません。
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はばたき市にも世の中同等春はくる。されど桜は散りゆき、新緑の五月を向かえていた。陽光は時折夏の気配を見せ、昼間になるとチラホラ半そで姿の季節を先取る者も現れる。
そんな日差しの中、森カノコはお気に入りのシフォンブラウスに薄手のボレロとクラシックなデニムタイトスカートで、森林公園のベンチに腰掛けていた。先ほど買った二人分のシェイクを間に挟んで隣には、この3月に高校の卒業式後、想いを告げあった仲、つまり現・彼氏である桜井琉夏が、機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら同じように、ベンチに腰を下ろしていた。
地毛ではないかと思わせるほど、自然な金髪は相変わらず肩先より長く、右手カノコ側からだと表情が覗けない。色素の薄い瞳と整った造作も相まって、異国の血が混じっているのではと勘違いされる事も多々あるらしい。体躯は空手とケンカのおかげで幼少の時ほど女性に間違わなくなったというが、彼と並んでいると周囲の視線がどれだけ集められるかよくわかる。
そんな彼が自分と一時期『親友』だった。
それは非常に鼻が高いことであったり、良くも悪くも目立っていた琉夏をほっておけなかった。気がつけばそれは恋心に成長し、もう毎日ずっといっしょに居られないと突きつけられた高校卒業の日、夕焼けの教室で、琉夏に自分と同じ想いを告げられ、『親友』から「彼氏彼女」へと関係を発展させる事と相成ったのだ。
とはいってもまだ二ヶ月ちょい。
友達時代から二人でよく遊びに出かけていたせいか、その名称が「遊びに行く」から「デートに出かける」に変わったところで、二人で遊ぶことも食事を取ることもなんら変わらなく、「彼氏彼女」としてなにをすればいいのか、正直戸惑っている最中だった。
琉夏の態度もその頃と差はなく、ふざけて見せたり、カノコをわざと怒らせてからかったり、それで家まで送ってもらって「バイバイ」してデートは終了している。
「カノちゃん?」
「え?」
「上の空だ。大学忙しい?」
ぼんやりここ二ヶ月の自分たちを思い返していて、彼に話しかけられていたのに反応出来なかったらしい。そんなカノコに琉夏は少し心配げな視線を送る。
そう、この春からカノコは一流大学に通う女子大生に、琉夏は辛うじて出席日数はクリアしていたものの、一部の教科の奮わない成績と決して誉められない素行から、進学も就職もしないフリーターだ。
四月はカノコの初めての大学生活と、琉夏は高校時代暮らしていた家の取り壊しなどで引越しやら何やらでバタバタとしていて、メールや電話のやり取りが主となることを余儀なくされる。そしてやっとこのゴールデンウィーク明けの土曜の午後、久しぶりのデートにこぎつけていたのだった。
「それなりにね。でも今はちょっと気が緩んでただけ。ごめんね、久しぶりに会ったのに、ぼっとして」
ペロリと舌をだして反省を見せると、琉夏は眉を寄せて小難しい顔をして首を横に振った。
「ダメ」
「え?」
「今のごめんを、小首傾げて舌出しながら、自分の拳を頭にポンっておいてくれたら許す」
「……な…っもう!そんな事ばっかり言って!」
「あはは、もうっ、叱られた」
時々理解しがたい琉夏の萌え仕草の依頼に、気恥ずかしさで赤くなった頬を誤魔化そうと、シェイクを掴んでわざとズズッと音を立てて飲む。そんな様子を琉夏はケラケラと笑っていたが、ふいに空を仰ぎ見ると、視線をそのままに呟いた。
「オレさ、引越しした」
「…うん、実家に戻ったんだよね?」
「うん、そんでももっかい引っ越したんだ」
「ええ?」
瞳を見開いて驚くカノコに、琉夏は悪戯が成功した子供みたいに笑ってみせる。
「今度はちゃんと不動産屋通して、毎月家賃払うようなとこだよ。片付け済んだら招待するな?」
「どこ?アパート?」
「うんにゃ、なんと庭付き一戸建て!すごいだろ?」
「えええっマジ?」
「マジ、…って言ってもすんげー古いの、もうお化け屋敷?サダコ出てきそう」
珍しい琉夏の照れ笑いに胸の奥がキュッとなる。けれど会話の内容に集中した。
「人住めるの?」
「最初は無理そうだったけど、今ちょっとずつレベルアップ中。オヤジの餞別で水洗トイレになりました!」
胸を張って言う内容に、つまりそこは田舎のおばあちゃんちが昔そうだったように、水洗トイレではなかったということか。転勤族の娘だったカノコにとって、はばたき市は割りと都会に分類していたが、まだそんな昭和な建物が存在していたという事に、めまいさえ覚える。
「風呂も昨日コウが汗水たらして磨いてくれたから、超キレイになったんだぜ?オレは今外壁青のペンキで塗りたくっててさ、すごいの、長時間青ばっかり見てたら、白い車が緑に見えた」
「…コウくんもまたいっしょに住むの?」
琉夏の同い年の兄に当たる桜井琥一は、琉夏と同じく進学はせず、今は建設業を営む実家の手伝いをしていた。琉夏、琥一と幼馴染のカノコにとって、彼はとても頼りになる兄であった。琉夏と琥一は高校の三年間、親元を離れ二人で暮らしていたのだ。
ベタベタすると言うものではないが、兄弟のいないカノコにとって桜井兄弟は本当に仲の良い兄弟で羨ましささえ感じていた。
だから当然といえば当然の問いかけに、琉夏はすこし眉尻を下げる。
「ううん、自立したいからさ。今度こそ一人だよ。いまのとこ家の修繕にしょっちゅうコウは顔出してくれてるけど、家賃も生活費もオレが稼いでオレが支払うんだ。おかげでサダコハウスみたいな家なんだけどさ。大家さんが人の住める家に直してくれるんならって、格安家賃でさ。なんとかバイトと受験勉強両立出来そう」
「受験?」
「うん、オレ来年一流大学入学目指してます」
「ええええ!」
いつだって琉夏は人を驚かせる事に事欠かないと言うことを、カノコは今日ほど思い知らされた事はなかった。
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